2023年09月03日 養父市出身の言語学者 田中克彦氏

養父市出身の言語学者 田中克彦氏(89歳)の著書をご紹介します。

言語学者 田中克彦氏のお名前は、新聞の書評欄等で度々、著書名とともに紹介されているのをみた記憶がありますが、私には難解と思いなかなか本を手にするには至りませんでした。

ある時、NHKTVで爆笑問題の太田光さんと対談されているのを偶然観て、博覧強記の知識をもとにした軽妙洒脱な話術とあたたかいお人柄がとても印象にのこりました。そしてさらにその後、あるきっかけで、田中克彦氏が兵庫県八鹿町のご出身と知って、驚くと同時にやっと膨大な著書のうちの何冊かを拝読することができました。

実際に読んだのは以下の3冊ですが、まだお読みでない方に是非お薦めしたい本です。

田中 克彦 著『田中克彦自伝―あの時代、あの人びと』2016年 平凡社

田中克彦氏は1934 年(昭和9年)いまの養父市八鹿町で誕生されました。第2次世界大戦下の八鹿の町で幼少期を過ごし、八鹿高校に入学直後、東京の戸山高校に転入。東京外国語大学に入学、モンゴル語学、さらにモンゴル学の研究へと進まれました。一橋大学大学院を経て海外での研鑽ののち、東京外国語大学、岡山大学、一橋大学を経て、現在は一橋大学名誉教授です。

この本はモンゴル研究を一途に貫かれた田中克彦氏の波乱に満ちた半生記で、タフな精神力、ユーモアと反骨精神あふれる筆致に圧倒されました。

 おばあさんに背負われていた幼少の頃からの大人顔負けの観察力と記憶力で、当時の八鹿の町のたたずまいが昨日の出来事のように綴られています。

研究をめぐる相克や友情、研究者との切磋琢磨の日々、海外の研究生活での、学者のみならず市井の人たちとのふれあいも興味深く、宮本常一氏、中根千枝氏、開高健氏、金田一春彦氏などとの交流も忌憚なく書き留められています。

田中 克彦 著『ことばは国家を超える』2021年 ちくま新書

 本の帯に「世界の見え方が変わる 言語学入門」と書かれていますが、これを読んだ後、まさしく世界が変わって見えました。

 フィンランド語、ハンガリー語、トルコ語、モンゴル語、朝鮮語、そして日本語、その語源はウラル・アルタイ語にあるというもので、この研究に携わった幾多の学者の研究をふりかえりながら、ウラル・アルタイ説が論じられています。

田中 克彦 著『ノモンハン戦争―モンゴルと満州国』2009年 岩波新書

1939(昭和14)年夏、当時日本の傀儡国家であった満州国とソ連の支配下にあったモンゴル人民共和国との間で、国境をめぐっての死闘が繰りかえされました。

ロシア、中国、モンゴルを何度も訪ね、モンゴル族が命をかけて守り残した膨大な原文による史料と研究にあたり、モンゴルの歴史、政治情勢の経緯と中国、ロシア等の国際関係を踏まえてノモンハン戦争がモンゴル族にとってどのようなものであったかを、モンゴル研究家ならではの視点から書かれています。

授業で私は「ノモンハン事件」と教わりましたが、なぜ、「ノモンハン事件」ではなく「ノモンハン戦争」なのかも理解できました。

いまロシアとウクライナでは最新兵器による戦闘が続き、多くの人命が犠牲になっていますが、この、いまの戦争についても考えさせられる1冊でした。

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田中克彦さんと詩人の永窪綾子さん(養父市大屋町出身、埼玉県所沢市在住)はモンゴル研究を通じて交流があります。

今回ご紹介しました『田中克彦自伝』は永窪さんから教えていただいて知りました。

 田中充子さんは私の高校時代からの友人ですが、田中克彦さんの妹さんだと最近知りました。建築史学者。国土史研究家。京都精華大学名誉教授。『プラハを歩く』(岩波新書)ほか沢山の著書があります。

                                   記・柳沢